犯罪者は共感性が低いわけではない?

岡本 英生

 日々さまざまな犯罪事件が起きています。犯罪者は,他人の物を盗んだり,暴力をふるってけがを負わせたりします。集団でリンチを加えて被害者を死なせてしまうこともあります。「どうしてこんなにひどいことを平気でするのだろう」と思いますよね。犯罪者は,被害者の気持ちを理解していない,つまり共感性が低いのではないか,とみなさんが考えるのは当然なことです。

 犯罪者の共感性を調べた研究には,確かに犯罪者は一般の人よりも共感性が低いとするものがありますが,そうではなく,犯罪者の共感性は一般の人と変わらない,あるいは反対に一般の人よりも高いといった結果を示しているものがあります。これは一見,奇妙に思えますが,犯罪者の行動を考えるとそれほど不自然なことではありません。

 たとえば,このような例があります。ある犯罪者は被害者に対し,殴る蹴るの激しい暴行を加えて,重傷を負わせました。後遺症も残るくらいの重いけがです。被害者の気持ちが分かっていればとてもできるような行為ではありません。ところが,その犯罪者がなぜそのような行為をしたかというと,自分の友人が被害者からひどい目にあわせられたと聞き,友人のことをかわいそうに思ったので,仕返しでやったということでした。この犯罪者は,被害者には共感していませんが,友人に対してはとても高い共感性を発揮しています。

 また,初対面の者に残忍な行為を行う犯罪者であっても,自分の家族に対しては思いやりのある行動をするといったことはよくある話です。つまり,犯罪者は身近な者である友人や家族などには共感できるのですが,初対面の人やあまり親しくない人には共感できにくいのではないかという仮説を立てることができます。このように考えると,犯罪者の共感性は単純に低いというわけではなく,ある対象に対しては高い共感を示すことができるが,別の対象に対しては共感性が発揮されにくいという説明をしたほうがよさそうだということがわかります。

 

この記事を書いた人
岡本 英生
岡本 英生
おかもと ひでお

奈良女子大学 生活環境学部 心身健康学科 臨床心理学コース 教授

専門分野:犯罪心理学、犯罪学、臨床心理学

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