ごっこ遊びは、子どもの心のことば

黒川 嘉子

 みなさんは子どもの頃、プリンセスになって魔法を使ったり、お医者さんになってぬいぐるみたちに注射を打ったりして遊びませんでしたか。

 ごっこ遊びは、幼い子どもの単なる遊びのように思われるかもしれません。しかし、積み木を食べ物に見立てたり、空のコップでジュースを飲んでいるふりをするためには、目の前にないものを心の中に思い浮かべる力が必要です。また、ある物を別の物に見立てたり、自分とは異なる人物になったつもりで話したり、ふるまったりすることも求められます。このように、今ここにないものを別の物や行為によって表す心の働きを「象徴機能」といいます。ごっこ遊びは、子どもが象徴機能を使って、想像の世界をつくり出す遊びなのです。

 しかし、遊びの世界は現実の体験とまったく別のものではありません。子どもは、日常の生活で見たり聞いたりしたこと、自分が経験した出来事、そこで感じた嬉しさや不安、怒りや寂しさなどを材料にして、遊びの物語りをつくっていきます。たとえば、現実では変えられなかった出来事をやり直したり、怖い相手を退治したり、助けてくれる友達を登場させたり、現実の体験をそのまま再現するのではなく、役割を入れ替えたり、物語の展開や結末を変えながら、自分なりに体験を捉え直していきます。

 このような遊びの働きを、子どもの心理的な支援に活かす方法のひとつがプレイセラピー(遊戯療法)です。プレイセラピーでは、一定の部屋と時間が用意され、同じセラピスト(心理専門職)が関わり、子どもが安心して遊べるようにします。すると子どもは、人形同士のやりとりや繰り返される物語など、自分にとって必要な心のテーマを遊びの中で表現していきます。まるで、「心のことば」を話しているみたいに。

 子どもの「心のことば」に耳を傾けることは、大人の来談者の語りに耳を傾けることと、本質的には変わりません。ただし、子どもの場合、その「ことば」は会話だけでなく、登場人物の動きや物語を通して表されます。セラピストは、その子どもがつくり出す遊びの世界に一緒に入り、何を感じ、何を伝えようとしているかに耳を傾けます。プレイセラピーは、子どもとただ遊ぶのではなく、遊びを通してその心に出会い、理解しようとする心理療法なのです。

この記事を書いた人
黒川 嘉子
黒川 嘉子
くろかわ よしこ

奈良女子大学 生活環境学部 心身健康学科 臨床心理学コース 教授

専門分野:臨床心理学、遊戯療法、乳幼児心理臨床

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