計算の観点から数学を見直す
私たちは、計算の観点から数学を見直す研究をしています。
数学で計算の定義が確立してから、言い換えれば、計算とは何かが明らかになってからまだ100年たっていません。人類が何万年も前から計算をしていたことと比べると、つい最近のことです。つまり、人類は何万年もの間、計算とは何かをはっきりさせずに計算をしていたことになります。このことは、人類の活動として珍しいことではありません。たとえば、人類は物が燃えるとはどういうことかを知らずに何万年も火を使っていました。
約100年前に「計算」を定義したくなったことには、理由があります。19世紀頃から、存在することは証明できるのにその値を計算する方法がわからないものがいろいろと溜まってきたことです。20世紀が始まったころには、そのうちいくつかについては、計算する方法がみつかっていないだけではなく、そもそも計算する方法が存在しない疑いが濃くなってきました。
そこで、計算する方法がなさそうなものについて実際にないことの証明に挑もうとしたのですが、はたと困りました。「計算」とは何なのかがはっきりしていなかったのです。一般に、何かがないことを証明するためには、何を探しているのかが明確でなくてはなりません。この場合、「計算」の定義がはっきりしないと、「計算する方法がない」ことが証明できないのです。こうして、人類は長い歴史の末に初めて「計算」の定義を探し求めたのです。
それから紆余曲折があって、計算の定義が発見されました。1936〜1937年のことです。その後、第二次世界大戦でそれどころではなくなった時期もありますが、コンピュータの普及もあって計算の定義はじわじわと広く知られるようになっていきました。
そうなると、すでに知られている数学的事実についても、計算の観点を加えてより細かく調べたくなります。結果はさまざまです。あるものは、その存在は証明できるが計算する方法は存在しないことが証明されました。あるものは、それまでの証明が精密化できて、計算する方法を厳密に記述できるようになりました。その中間の奇妙なものも発見されました。
このようにして、計算の定義は数学を豊かにしています。それまで特に定義を考えなかったことの定義を発見することで数学が豊かになることはこれまでにも何度かありましたが、計算もその一例となっています。
