痛みとかゆみの違い ~なぜ掻くとかゆくなるのか?~
「痛みとかゆみでは、どちらが耐えられるでしょうか?」
授業でこの質問をすると、「痛みの方がつらい」という人もいれば、「かゆみの方が我慢できない」という人もいて、意見が分かれます。それは、これまで経験してきた痛みやかゆみの種類や強さが、人それぞれ異なるからです。
実は、痛みとかゆみには多くの共通点があります。どちらも体を守るための「警告信号」であり、不快な感覚だからこそ危険を避ける行動につながります。また、感じ方には個人差があり、疲れやストレス、不安など心の状態によっても変化します。慢性的な痛みやかゆみは日常生活に影響し、うつ病を併発しやすいことも知られています。
さらに興味深いことに、痛みやかゆみは脳の働きによって強まることがあります。例えば、誰かが転んで「痛そう」と感じたり、体をかいている人や蚊の写真を見て、自分までかゆくなった経験はないでしょうか。このように、他人の感覚に影響を受ける現象は「共感」や「社会的伝染」と呼ばれ、脳が感覚の感じ方に大きく関わっていることを示しています。
では、痛みとかゆみは何が違うのでしょうか。
かゆみは、皮膚や目など外界と接する場所で感じます。これは、虫や細菌など体の外から侵入する異物を見つけ、取り除こうとする免疫反応の一つです。そのため、かゆみは皮膚や粘膜で生じますが、内臓の「かゆみ」は感じません。一方、痛みは、怪我や火傷、骨折、内臓の病気など、組織の損傷を知らせる緊急の警告信号です。皮膚だけでなく内臓でも感じ、「胸が痛む」「心が痛む」というように精神的な苦しみも痛みとして表現されます。
では、なぜ掻くとかゆみは強くなるのでしょうか。かゆい場所を掻くと、一時的には気持ちよく感じます。これは、掻くことで生じる軽い痛みや触覚が、一時的にかゆみを抑えるためです。しかし、掻き続けると皮膚が傷ついて炎症が起こり、かゆみを引き起こす物質が放出されます。その結果、神経がさらに敏感になり、「かゆいから掻く、掻くからもっとかゆくなる」という「かゆみの負のスパイラル」が生まれてしまいます。さらに近年では、慢性化したかゆみには皮膚だけでなく、脳の関与も示唆されています。
心身健康学科に所属する私たちの研究室では、慢性的なかゆみがなぜ悪化するのかを、脳の働きに着目して研究しています。実習では、痛みやかゆみ、触覚と心理的な不快感と肌の特徴の関係を調べ、自分自身の皮膚感覚について科学的に理解します。身近な『痛い』『かゆい』という誰もが経験する感覚にも、まだ解明されていない仕組みが数多く残されています。
