人の視線が気になる人、気にならない人の違いとは?

横山 ちひろ

あなたは、大勢の前で発言するときみんなが自分を見ている気がして緊張するほうですか。それとも、人前でもあまり気にならず自然に人と目を合わせられるほうですか。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。実は、私たちの「脳」は人の視線にとても敏感です。相手が自分を見ているかどうかを、ほんの一瞬で判断し、その情報をもとに「話しかけられるかもしれない」「何か期待されているのかな」といった社会的な意味を読み取っています。これは人間だけでなく、サルなどの霊長類にも共通する大切な能力です。しかし、この視線への反応には大きな個人差があります。ある人は周囲の人の視線や表情にすぐ気づきますが、別の人はあまり気になりません。この違いには、いくつかの理由があると考えられています。

一つは生まれ持った個人差です。最近では、遺伝子やホルモン、自律神経の働きなど、生物学的な要因が視線への敏感さに関係していることがわかってきました。例えば、ストレスに関わるホルモンや、脳内で情報を伝える神経伝達物質の働きの違いが、社会的な情報の受け取り方に影響する可能性が報告されています。さらに、経験や環境も重要です。部活動やアルバイトなどで人と接する機会が多い人は、さまざまな場面で視線に慣れ、自信を持って人と関われるようになることがあります。反対に、人前で失敗した経験が強く残っていると、視線に対して敏感になることもあります。

私たちの研究室では、「人の視線にどれだけ敏感か」という個人差に注目しています。ヒトだけでなく、ニホンザルなどの霊長類でも、他者の視線や注意状態をどれだけ読み取れるかには個体差があることがわかってきました。さらに、その違いが脳の働きやホルモン、さらには遺伝的な要因とどのように関係しているのかを調べています。「視線が気になる人」と「気にならない人」。その違いは、脳や身体、そしてこれまでの経験が組み合わさって生まれる、一人ひとりの個性なのです。こうした個人差がどのように生まれるのかを明らかにすることは、人間の社会性を理解する上で重要な研究テーマとなっています。

この記事を書いた人
横山 ちひろ
横山 ちひろ
よこやま ちひろ

奈良女子大学 生活環境学部 心身健康学科 生活健康学コース 教授

専門分野:社会性と個性の神経科学

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