奈良女なら法律を学んで楽しく実践できる!?
かの大盗賊石川五右衛門は、京都南禅寺の三門から洛中の絶景を見渡して「浜の真砂は尽きるとも 世に盗人の種は尽きまじ」、と詠じたそうだが、現代の私たちであれば、差し詰め、あべのハルカスの展望フロアから都会の喧騒を見下ろし、「世に特殊詐欺の種は尽きまじ」、と嘆息したいところである。特殊詐欺とは、被害者と直接会わずに、電話やSNSやアプリなどを駆使して現金やキャッシュカード、電子マネーなどをだまし取る詐欺の総称で、最近ではAIで生成した有名人の動画で勧誘する投資詐欺や、ネット上で好意があるかに装い金品を詐取するロマンス詐欺などが猛威を振るっているからである。
私が担当する「消費者法」の授業の一部では、このような消費者問題に対して、契約の効力を否定したり、損害賠償の定めを設けたりすることで、事後の消費者救済がいかに図られるかを解説している。しかし、事前にトラブルを防げればそれに越したことはない。それに加えて、法学部ならぬ生活環境学部で法を学ぶことの意味はどこにあるのだろう。法学部では、裁判官など法律専門家の視点から法をどのような解釈でどう適用するかを学ぶ側面が強いが、多様な学びを標榜する生活環境学部でそれと同じことをしても意義があるのだろうか。
ではどうすればよいか。一つの視点として、私は、生活環境学部で学んだ大学生が、いわゆる「消費者市民」として自分の属している地域、学校、職場、家族など生活の基盤となるコミュニティで、学んだ法的リテラシーを共有し、レジリエンスを高める実践の担い手になる、そのきっかけとなるような学びを提供することがとても大事だと思っている。つまり、市民として広い意味で共同体の中で法を実践する担い手になるということである。
そのような発想から、10年ほど前に大学生による消費者啓発グループ、「奈良女子大学消費者問題研究会BEACS」を立ち上げた。幸いにして、適格消費者団体「なら消費者ねっと」をはじめ、奈良県内の多くの自治体や消費生活センター、弁護士会、司法書士会、消費者教育学会、文科省など多方面から温かい支援を受け、これらの団体との連携による活発な消費者教育・啓発活動が、全国からも注目されるようになっている。面白いのは、奈良女子大学生が消費者教育に携わることが想像をはるかに上回る効果を地域の消費者運動に与えていることである。いわば地域の多職種多機関連携の触媒のような役割を担って皆を結びつけているとでも言ったらいいだろうか。若者らしい創意工夫を凝らして制作したエデュテインメント・コンテンツ(すごろくやカードゲーム)を通して人々が楽しく学べるように努力する姿に触発されて、行政もNPOも専門家も、皆、より結びつきを強めている。手前味噌のようだが、地域の連携が大学生によって活性化しているのは誇れる点だろう。
昨年は、高齢者施設や学校での活動のみでなく、ショッピングモールでの県の「消費生活フェア」や、文部科学省・奈良女子大学主催の「消費者教育フェスタin奈良」、NPO企画の「あつまるNARA消費者楽習フェス」など大きなイベントでBEACSが中心的な役割を担った。奈良の特色は、大学生が消費者運動の中核を担っていることである、という評価も各所でいただいているようである。
このコラムを読んでいる在学生や受験生のみなさんにもぜひ私たちと一緒にこの活動に参加してもらい、学び、実践し、社会にも貢献する喜びを共有したいし、いずれ将来私が去った後の奈良女子大学でも引き続き10年20年と活動が継続してほしいものだと願っている。
