糖尿病は治せる病気になるのか?

稲田 明理

私たちの体では、食事や運動によって血液中の糖(血糖)の量が変化します。しかし、血糖値が高くなりすぎたり低くなりすぎたりしないように、さまざまなホルモンが働いてその値を適切に調節しています。

中でも特に重要なのが、膵臓(すいぞう)にある「β(ベータ)細胞」が産生するインスリンです。食事後に血糖値が上昇すると、β細胞からインスリンが分泌され、血糖値を下げる働きをします。しかし、β細胞の数が減少したり機能が低下したりすると、インスリンが十分に作られず、血糖値が高い状態が続く「糖尿病」となります。(写真はマウスの膵島)

私たちの研究室では、「失われたβ細胞を体の中で再生・増殖させることで、糖尿病を根本から治療できるか」というテーマに挑戦しています。また、ホルモンや栄養素、薬剤が血糖値の調節にどのように関与するかを解明し、新たな治療法や予防法の開発を目指しています。

研究の主な内容

1.β細胞のもとになる幹細胞を発見

私たちは、膵臓内にβ細胞へと分化できる「幹細胞」が存在することを明らかにしました。これは、失われたβ細胞を体内で再生できる可能性を示しています。

2.β細胞の再生による糖尿病の回復を確認

これまでβ細胞は、一度失われると再生が困難だと考えられてきました。しかし私たちの研究により、特定の条件下でβ細胞が増殖し、重度の糖尿病や糖尿病性腎症がマウスで改善することを明らかにしました。

3.β細胞を増やす仕組みの研究

糖尿病の主な原因の一つは、β細胞の減少です。私たちは、なぜβ細胞が減少するのかを解明するとともに、β細胞の増殖を促進する遺伝子を発見し、その機能について研究を進めています。

4.糖尿病性腎症の研究

糖尿病が進行すると、腎臓に深刻なダメージを及ぼすことがあります。私たちは、重度の糖尿病性腎症を再現できる特別なモデルマウスを作製し、病気の進行メカニズムや新たな治療法の研究を進めています。

5.栄養と糖代謝の新しい関係を探る

食べ物に含まれる栄養素が、血糖値の調節にどのような影響を及ぼすかを研究しています。この取り組みにより、栄養素の新たな機能を明らかにし、食事を通じた糖尿病の予防や新しい治療法の開発につながることが期待されています。

未来へ向けて

現在の糖尿病治療は、主に薬剤やインスリン注射によって高血糖をコントロールすることに重点が置かれています。しかし、もし高血糖そのものを未然に防ぐことができれば糖尿病の「予防」につながります。さらに、体内でβ細胞を再生・増殖させることが可能になれば、糖尿病を根本から「治す」治療法の実現も期待できます。私たちは、こうした新たな治療法の確立を目指して、日々研究を続けています。

 

この記事を書いた人
稲田 明理
稲田 明理

奈良女子大学 生活環境学部 食物栄養学科 教授

専門分野:分子生物学、実験病理学、糖尿病・内分泌・栄養学、病態医化学、生活習慣病、膵β細胞

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